私は一つだけ残っていた餃子に箸をつけた。一方の速水さんは内川くんのコップを奪い水を飲む。

「飲みすぎちゃいました?」

「いつもよりね。」
 濡れた唇を彼はぬぐった。

「内川くんが心配ですね。」
 苦笑する私。

「まあ俺が途中までついてるからなんとか。」

「あ、速水さんもそっち方面なんですね。」
 同期で飲んだとき、内川くんと途中まで帰ったことを思い出していた。

「じゃぁ長嶋一人か、
まぁあいつはなんだかんだ大丈夫かな。」

「お店出て風当たった途端、長嶋さん酔い覚めますもんね。」

「うん。ひどかったらタクシー乗せよう。」
 速水さんの表情がくすりと緩んだ。


 普通に話してたらいい人なんだけど。
でも、ちょっと油断すると噛みついてくるというか。

しまうまがらいおんに襲われるみたいに、獣みたいに―――って何ばかなこと考えてんだ、私は。

動揺した私は、そのまま目の前に置いていた内川くんの飲みかけのお酒に手をかけた。

「ばか。」

「あっ。」

 ジョッキを持った私の手、上から速水さんの手が覆いかぶさる。

そのまま、1秒。

2秒。


3秒目、するりと私は手を抜かした。


「お前も飲むな。
ったく、内川追い出した意味ないじゃん。」
 速水さんはそのまま口にジョッキを当てた。

「す、すみません。」
 言葉が私の口からこぼれる。

あーあ、食べられたかと思った。
だってほら、触れられたとこがばかみたいに熱い。