意地悪な片思い


「そういえば速水先輩と市田さんって面識あるの?」
内川くんの視線が私のとぶつかった。

「あ…えっと、
ちょっと前に、初めて一緒に軽いお仕事させていただいて。」
 びっくりした、話の内容聞かれてたのかと…。

速水さんの顔色をちらりと見ながら答えたけれど、先ほどと何一つ変わらない。
動揺してるのは私だけか。

「そうなんだー。
いいなぁ、俺最近速水先輩と仕事できてないし羨ましい。」

「あほ。」
 速水さんは内川くんの熱い視線をスパッとかわした。

「っていっても速水さんが質問してくださって、私が答えるっていう手短なものだよ。」
 私はビールをごくっと飲む。

「それでもいいじゃないですかー。」

「飲みすぎ。」
 速水さんは笑いながら内川くんの頭を軽く叩いた。

内川くん人懐っこいとは分かってたけど、これほど速水さんに慕ってるなんて
結構面倒見いいんだ。


「市田さんは速水先輩どうだったんですか?」

「どう…って。」
 またもや反応に困るパスが私に飛んでくる。速水さんを見るも彼は黙っているだけ。

なんで私の時は黙ってるのよ…。


「速水先輩って結構人気あるって聞くんで、市田さんはどう思ったのかなぁって。」

「……。」
速水さんの表情を見る。

本当、ずるい人だ。
さっきまで知らんぷりだったくせに、こういうときだけ私に視線をあわせてくる。
その色っぽい目が私を捕らえてくる。

なんて答えるか興味がある…みたいに。


「え、速水ってそんなに人気あるの?」
 長嶋さんが驚きの声をあげた。

「ありますよー。」

「えーいいなあ速水。」

「…お前も飲みすぎ。」
 呆れた声を出しながら速水さんは長嶋さんに水を勧めた。


「あでも長嶋さんも結構人気ありますよ。
優しい人だって。」

「市田もっと優しいって噂しといて。」
 長嶋さんは笑って、ビールをまた二つ注文した。

「もう酔いすぎです!」
 くすくす長嶋さんに笑いながら私もまた一つビールを追加する。

「長嶋さん、内川くんとさっきまで何お話しされてたんですか。」

「ん、あれだよあれ。」
 長嶋さんが車の話を再び始める。内川くんも速水さんと何やら雑談を始めた。

よかった、これで答えなくて済む。
心の内で安堵した。