「市田は長嶋とよく飲むの?」
不意に、私の横顔に速水さんの言葉が飛び込んだ。
「いや、たまにお誘いいただくって感じです。
今日も久しぶりだったんですけど。」
慌てて速水さんに視線をあわせて、料理の話じゃないんだって思った。
「そっか。」
速水さんは口にお肉を運ぶ。
「速水さんは長嶋さんとよく飲まれるんですよね…?」
「うん。内川とも飲むけどね。
内川とは飲んだことあんの?」
「1対1ってことはないんですけど同期で集まったときに。」
私の同期は5人。それでも他の部署だったり隣の県にお勤めだったりで当分会ってない人もいる。内川くんはそんな中で会える、少ない同期の一人。
といっても素直な感じも無邪気な感じも、初めて会ったときから全然変わっていないけれど。
「飲んだことあるんだ。」
「数回ですよ、最近は全然話せてなかったですし。」
ってなんで、弁解みたいなこと。
私はごくっとビールを飲んだ。
「ふーん。」
速水さんが自身のジョッキに滴った滴をつーっと指ですくう。
あどけない子供が退屈しのぎにする仕草。
でも彼がすると、いたく妖艶―――。
「俺とは飲まないのに?」
そのまま流れるように彼の瞳は私をじっと見る。
「……それおかしいです、
速水さんと飲む方が不自然じゃないですか。」
パッと私は視線をそらした。
「それもそうか。」
微笑する彼。
隣の長嶋さんたちが大声で盛り上がっていることを再び確認した私は、たまらず彼を責めた。
「内川くんが心配です。
速水さんにいじめられてるんじゃないかって。」
「俺がからかうのは市田だけだよ。」
「…全然嬉しくないです。」
「ハハハ。」
見据えてくるときはすごい大人な人なのに、ひとたび笑ったら子供みたい。
まずいな。
この胸のドキドキが、ビールのせいなのか彼のせいなのか
どっちなのか分かんない。
だからだよ、私はいずれこうなってしまいそうで、「変な人だ」なんて言って彼を――― …
「あれ?」
次にそう声をあげたのは速水さんではなかった。


