「市田さん。」
同時ともいえるぐらいに、叩いてきた人が口を開く。
「あ、内川くん。」
速水さんじゃ、なかったか。
「何してるんですか。」
コーヒーの匂いが彼から少し強く香って来る。さっきまで給湯室にいたのかな。
「資料室に用事があってね。」
「そうなんですか。俺、今お昼中で。」
「そっか。」
こんなに遅く…内川くんもお仕事大変みたいだな。
「ねぇ。内川くん。」
「何ですか?」
じゃぁと立ち去ろうとした彼を私は引き留める。
「速水さんって…今日残業するのかな。」
こんな名指しで聞いて、変に思われちゃうかもだけど彼に聞く以外他はない。
「うーん、」
お願い速水さん。残業であって…!
「……残らないと思いますよ。
何か用があるとかなんとか言ってたような。」
違ったかなと内川くんは首を傾げた。
「そっか。」
今日はもう無理か。
「分かった、教えてくれてありがとう。
引き留めてごめんね、お仕事頑張ろう。」
「はい。」
笑い返して内川くんが給湯室に戻っていく。
せっかく髪も化粧も、上手にできたのになぁ。
タイミングって重要だね、気落ちしちゃったやすっかり。


