意地悪な片思い


「んーでも、入っておいで。
俺は逃げないけど、お湯は冷めちゃうぞ。」
 子供をあやすときのように彼は優しくそう言って私を諭した。

「じゃぁ……」
 そんなに言うんだったら、

「お先にお風呂入ってきちゃいますよ。」

「うん。」
 私はベッドから立ち上がって脱衣所に向かう。

「あの、でもすぐに出ますからね。すぐ。
だから、寝ないでくださいね。間違っても。」

「うん、分かったから。」
ハハハっと彼は嬉しそうに笑った。
いつだって余裕なんだ、速水さんは。

「じゃぁ切ります。」と私は告げると、そこで私たちは一旦電話を終えた。

 手早く化粧を落とすと、服を脱いでズボンだけネットにいれて洗濯機に放り投げ、用意していた部屋着の上に携帯を置いていく。そのままお風呂場に入った。

 沸けたよと教えてくれた機械をすんなり裏切った罰なのか、天井にはいつも以上の水滴の数が出来上がってる。

「つめたっ。」
 シャワーで体を流していると、その中の一つが私の頭に落ちてきた。

ごめんね。
一応心の中でお風呂に謝る。
私、お風呂は好きだけど、速水さんとの電話はもっと好きなんだってついでに思いながら。

 頭を洗って、体を洗って、私はチャポンとお湯に浸かった。

もうこの湯船を出ればお風呂は終わりだ。たぶん結構早い気がする。だらだらだらだら、お湯に浸かってるってのが私なのにね。

でもすぐに出ちゃったら「そんなに電話したかったの?」ってからかわれちゃいそうだからな。

ま、とりあえず出るだけ出ちゃおうか。

手ですくったお湯で顔をピシャンと洗うと、私は立ち上がった。