意地悪な片思い


「ありがとうございました。」
 バスを降りた私は、アパートまで5分ほどかかる家路を歩き始めた。

星、やっぱりきれいだ。その途中たまに夜空を見上げる、速水さんとそうしたように。
手は空っぽだけど。

家に着いたら、連絡…してみようかな。
文字じゃなくて、声で。
って、さっき会ってたのに変か。

でも、電話したいなぁ。特に話すこともないってのに。

 私は空の手を埋めるように、カバンから携帯を取り出した。そのままアパートまで歩いていく。着くと、私はガチャリと玄関を開けた。

「ただいま。」
 誰もいない部屋に私の声がひとつこだまする。なんだかいつもより寂しく聞こえた。

 履いていたパンプスを脱いで、私はリビングに入る。速水さん家よりもごちゃごちゃしてるってのが、なんだか癪だけど。

「お風呂おふろ。」
 スイッチをポチっと押して、私はお湯をため始めた。夏真っ盛りになると、もはやシャワーだけで手早く終わらせちゃうんだけどね、まだ今は何となく湯船つかりたいから。

私はそのまま湯船に栓をすると、たまるまでベッドに転がってることにした。

携帯とまたにらめっこを初めて、彼の文字をじっと眺めてる。そのままえいっと、彼の名前をタップした。

お酒のせいって、少ししか飲んでないくせに、そいつのせいにして。


プルルルルーっとコール音が響き始める。

こうして相手を待っている時って無性にドキドキしちゃうもんだけど、速水さん相手だとその気が余計高くなっちゃうのはなんでなんだろうな。

……やっぱりでない、

「もしもし?」

「あっ、速水さん!」
 出てくれた!

「…え?う、うん俺だけど。」
 若干戸惑った風な彼の口調。それもそうか、電話してきたうえに急に名前を呼ばれたんじゃ。

「あの、今大丈夫ですか?」

「うん。大丈夫だけど……。」

「よかった。」
 安堵の声をこぼす。

「さっき、俺の名前呼んだ?」

「はい、呼びましたけど……。」
 電話出てくれたことが嬉しくて思わず呼んじゃったんだけど、やっぱりダメだったかな。

「なんだそれ、かわいーな。」
 ハハハっと彼が笑う。

「……可愛くないやい。」
 そんな風に素直に褒めて貰えたら照れるじゃんか。速水さんのことだから、からかって言っただけなのかもだけど。