意地悪な片思い


「結構降りるの疲れるんだね。」
 1階にたどり着いた私は彼に尋ねた。

「いい運動になった?」
 私はうんって返事する。

 速水さんの、降りるときだけはエレベーターを使わないっていう、ここ最近の慣習に付き合ってみただけど、運動不足とかダイエット中の人にはなかなかいいかも。

私のアパートは2階建てだから、それこそ階段ちょぴっとしかないけど。


「まだ疲れてる?」

「へ?」
 あ。
彼がそう尋ねてきた意味を私は理解する。

「…うん、疲れてる。」

「そっか。」
 彼は再び歩き始めた。
私と手をつないだまま。

「夜は涼しいね。」

「本当ですね。」
 まるで散歩してるみたいだ。

「星も綺麗ですよ。」

「本当だ。」
 私は手を伸ばして春の大三角形を探した。オリオン座とカシオペア座しか分からなかった私だけど、実はちょっと最近星のこと調べてたりしたんだ。

「あれ、スピカっぽいですね。」

「どれ?」

「すごく光ってる奴です。」

「あー、きれいだね。」
 彼の呟きに私は笑顔をこぼす。

バス停までのちょっとした時間だってのに、なんでこんな楽しんだろうな。私はつないでる手をぶんぶんと振ってみた。

「そんな嬉しいの?」

「……嬉しいよ。」
 なんて素直に言えたのは、お酒のせいと綺麗な星たちのせいと、彼の体温のせい…?

「来るときもつなげばよかったな、それじゃ。」
 彼はそっぽを向いて答えた。

「うん、つないでよ。」
 そう呟いた私の声は、すれ違った車の音でかき消される。


「じゃぁ、また月曜日。」

「おやすみさなさい。」
 バス停にたどり着くとすぐにバスが来たので、私たちの手は離れた。ちょっとだけ名残惜しく。

彼の姿が見える席に私は座った。彼が私に気が付いて、手を軽く振ってくれる。私も同じように。

「発車します。」
 運転手さんが告げて、彼の姿が見えなくなる。バスが出発してからも、何となく窓の外を私は見ていた。

とくに珍しい景色でもないのに。