ようやく電話が終わり、彼の手が私のそれから離れてく。
「…もう、なんで隣に座ってくるんですか。」
「寂しそうにしてたから。」
「してないやい。」
クスッと速水さんは笑った。
「そろそろ出る?ごめん、最後の最後に俺が電話してて。」
「…電話のことはいいですけど、」
「なに?」
手を重ねてきたことの方を私は気にしてるんですけど。
「何でもないです。」
もういいや。そう文句言ったってどうせ彼に勝てないんだし。大人しくここは引き下がろう。
「バス停まで俺もついてくから。忘れ物ない?」
「はい。」
私は近くに置いていた鞄を持った。彼は寝室へ行くと手に鍵をもって出てくる。
「部屋着でいいかな?」
「十分ですよ。」
少し抵抗があるらしい彼に、私は大丈夫と答えた。
私なんてしょっちゅう部屋着で外出たりしてますから、とまぁそんな余計な一言は言わないでおいたけども。
鍵をかけて、私たちは速水さんのマンションの階段を一緒に降りていく。10階建ての7階に住んでいる速水さん。
エレベーターを使わないのは、彼のお腹事情に手伝ってのことなんだけど、おかげで「こんばんは」と途中、ほかの住人さんと思われる人とすれ違った。
速水さんの後ろに隠れるようにいた私を、ちょっとだけ住人さんは目配せしてく。
傍(はた)から見たら、付き合ってるって思われる方が自然なことなんだろな。
宙ぶらりんになっている彼の手を、私は何となしに見つめた。
「大丈夫?」
振り返ってきた彼に、うんって返事しようとする。その前に流れるように、ぎゅっと私の手を掴んだ。
「速水さん?」
「降りるまで。」
ぼそっと呟く彼。
「疲れてそうだから。」
言いわけを落としてく。
「うん。」
伸ばせずにいた手を掴んでくれたはやみさんに、私はドキッとした。


