意地悪な片思い


「じゃぁそろそろ片づけましょうか。」
 時計の針は21時を回った、私もそろそろ帰宅した方がいい頃合だ。彼の分の食器と私のを重ねて、流し台に運ぶ。

「市田が洗い物係?」

「んー、そうですね、そうしましょうか。」

「じゃぁ、俺拭く係ね。」
 彼は台拭きを持っていく。
係なんて言葉、しばらく聞いてなかったかもだなぁ、何か懐かしい。


 私はわしゃわしゃとスポンジを泡立てた。ハンバーグを焼くのと、枝豆を茹でるのに使ったフライパンとお鍋は水につけてある。
フライパンは、洗剤もちょこっと入れてあるから、頑固な汚れもすぐとれるだろう。

 この間速水さん家にお邪魔させていただいたとき、漬け忘れてたってヘマしちゃったから、今日ばかりはちゃんとしないと。
3度目の正直ならぬ、2度目の正直だね。


「ビール、持って帰る?」
 台拭きを終えた彼が、余った一缶を私に見せびらかした。

「私、いいですよ。速水さん飲んでください。」
 それに今日の食材とかお酒代、全部速水さんが出してくださったんですから。私はスーパーでのことを思い出す。

「じゃぁビールのストックあんまりないから、お言葉に甘えて。」
 冷蔵庫に彼はそれをしまった。無くなった他の缶達はゴミ箱に投げ入れる。

 私がお皿をゆすぎ始めると、洗ったそれらを速水さんはふき始めてくれた。
「拭き係だから」なんて、口元を緩めながら私に言う。

こういう優しいところ、結構好き。
そう素直に言えたらかわいんだろうけど、言えなくてごめんね速水さん。

「終わったね。」

「終わりましたね。」
 水しぶきが飛んでるキッチン台の上を、最後台拭きでふくと片付けが終わりを告げた。速水さんが手伝ってくれたおかげで、あっという間だったよ。

「もう、帰らなきゃだっけ?」

「あ、えっとそうですね。」
 速水さんが時間を時計で確認しながら私に告げる。

「バスの時刻分かる?」

「今調べてみます。」

「ん。」
 とりあえず座りなと、私たちはキッチンから外れた。