意地悪な片思い


 気を取り直して私たちは食事を再開し始めた。

長嶋さんかと思ったね、なんて会話を筆頭に、箸持ったまま隠れちゃいましたよ、そう彼に伝える。またしても笑われちゃったけど。

 それから仕事の話をちょっとしつつ、最近見てるテレビの話だとかあの芸能人はどうだとか、動物は何が好きかとかそんな本当どうでもいいような話を何個かして、

「美味しかったですね。」

「本当。ハンバーグありがとう。」
 すっかりなくなったお皿たちの前で私たちは一緒にごちそうさまをした。

「ちょっとしたら片づけようか。」

「そうですね。」
 お酒はあんまり進まなくて、缶ビールがまだ1本残ってる。私と速水さん、互いに1本半ぐらいしか飲んでないんだ。

私にとっては十分くらいだけど、彼はまだまだ飲めるはずなのにな。キス魔のこと気にしてそうしてくれたのかな。

 私はちらっと速水さんを覗いた。

「雨宮さんとさ、市田仲いいの?」

「雨宮さん?」
 そんなタイミングで、全然関係ないようなその人の名が彼の口から飛び出て、私はびっくりする。

「雨宮さんとこ今日行ってたんじゃないの?」
 続けた彼に、あぁそうかと私は思い出す。

 今日会社の階段で速水さんに会ったとき、下の部署に行ってましたって言ったんだっけな。すっかり忘れてたけど。

「仲いいというか……大体下のフロアの方に用事があるとき、雨宮さんにお世話になるので。歳も近いですから、話しやすいってのもあって。」

「ふーん、そっか。」
 ……え、なに?

「やきもちですか?」
 冗談交じりに私は彼に尋ねた。

「おたんこなす。」
 お、おたんこなす…?

「今度雨宮さんと仕事するかもだから、それ関係で聞いただけ。」
 速水さんはぐびっと桃味のチューハイを流し込んだ。

 速水さんがやきもちなんか妬くわけないか。それにしたって、おたんこなすって…。