意地悪な片思い


「これ3つですね。」

「はい、お願いします。」
 下の部署に来た私は、雨宮さんに声をかけてそれらを全部引き継ぐ。

「結構ありますけど、雨宮さん大丈夫ですか?」

「あぁ大丈夫ですよ、お気遣いありがとうございます。」
 って言ってるけど疲れた顔してるなぁ、雨宮さん。

優しい人だから、微塵も感じさせないように本人は気を配ってるんだろうけど…

「今からお昼ですか、市田さんは。」

「はい。」
 雨宮さんは…まだまだっぽいな。

「あの、市田さん今度二人で飲みどうですか。」

「え?」

「最近飲みにいけてなくて。」
 後ろ髪をかきながら彼はおずおずと答える。

突然誘われちゃったからびっくりしちゃったけど、前もそう軽く約束してた覚えがあるし。

「私でいいなら。」

「ありがとうございます、じゃぁ今度お誘いしますね。」
 失礼します、といいながら私はそこで雨宮さんと別れた。

誘われたけど、忙しそうだからだいぶ後になるか、またおじゃんになっちゃうかのどっちかなんだろうなぁ。

階段を昇りながら私は考える。ふたりで飲むのは初めてだっけ。長嶋さんは趣味の話をしてくれるけど、雨宮さんは何を話してくるんだろう。

「市田。」

「え?」
 声がした方向を見つめると、階段上に速水さんが立っている。

「あ、速水さん。」
 私は階段を駆け足で昇った。

「犬みたい。」
 ハハハっと彼が笑う。

せっかく小走りで駆け寄ったのに。もう絶対速水さんの前じゃ走らないからね。

「雨宮さんとこ?」

「はい。」

「ふーん、そっか。
ま、それは置いといて、今日の飲み下で待ってるから、前みたいに。」
 ちょっとだけ小声で彼は言った。

「分かりました。」

「携帯でまた連絡入れるから。」
 私はこくんと頷く。

「じゃぁ俺、今から外だからまたあとで。」

「はい。頑張ってください。」
 階段を降りていく速水さんの背に私は声をかける。

「ん、頑張る。」
 微笑む速水さんに、

ちょっとだけカップルを通り越して、朝見送る奥さんみたいだって思った(ひどい妄想してごめんなさい、速水さん。)