「今からお昼ですか?」
「ううん、市田が入っていくところ見えたから、ちょっと寄っただけ。
すぐ戻らないと。」
「そうですか。」
「約束は守らないとだからね。」
速水さんは目元を緩める。
「ふーん。」
「なんだよ。」
「別にです。」
…速水さんにとっての“会える”の意味も同じだったんだ。
「じゃぁこれ、コーヒー持って行ってください。私、今からお昼なので。」
「そっか。」
私はコーヒーを速水さんに差し出した。
「ありがと。」
速水さんは素直に受け取る…
「ちょっと、」
なんてことはなく、コップだけじゃなくて私の手をも包み込んでしまうようにそれを支え持った。
「今週末も電話してい?」
続けて私の耳傍で声という名の熱を落とす。
くすって笑って、私を悪戯に見つめてきてる辺り、私が恥ずかしがってること彼にばれてる。
ずるい、頷くことしかできないじゃない。
私の反応を見て彼はくしゃっと破顔した。
「じゃぁね。」
私の手から彼の熱が離れていく。
「速水さん。」
その手を引き留めるように私は彼の名を口にした。
「何?」
「あの、えっと。」
声をかけたってのに、別段言いたかった言葉があるわけじゃない。
でも……まだ速水さんと触れてたくて
「私からかけますから、電話。」
速水さんは一瞬呆けた顔をして、またクシャっと顔を緩めた。
「うん、待ってるよ。」
ポンと私の頭を空になっている手で撫でる。
よしよしって感じじゃなくて、ポンって撫でてくれる速水さんのこれがすごく好きだったりする。
「じゃぁ。」
「はい。」
今度こそ速水さんは給湯室を後にした。


