「え?」

『速水 至』その名が表示されていた。
メモに3と書き落としている横は空白のまま、ペンをひとまず置いて私は電話に出る。

「…もしもし。」

「あほ。もう日曜の20時なんだけど。」
 開口一番、不満そうにうな垂れた速水さんの声が耳に入ってきた。

「でも今、電話しようとしてたんですよ。」
 ちらっとメモ用紙に目配せしながら私は答える。

「また躊躇ってたんじゃないの?市田のことだから。
…この間の話気にしてたりして。」

「ち、違いますよ。」
 メモに時間とられてただけです。
俺と電話するだけなのに、メモなんかとってるの?って笑われそうだから、そんなこと言わないでおくけども。

「ならいいけど。」
 クスっと速水さんは笑った。

「何してたの?」
 メモ書いてました、なんてやっぱり言えない。

「お風呂入ってましたよ。」
 これは嘘じゃない。ほら、髪だって濡れてる。

「そっか。」

「はい、速水さんと電話するから…。」

「俺もそう思ってお風呂済ませた。」
 電話の向こうで小さな笑い声が聞こえた。

お風呂済ませてるのが同じってだけで、喜んでくれてるのかな。私の目元も自然と緩む。