意地悪な片思い


「でも、どうして?内川なんか言ってた?」

「あっ、何か含み笑いをされまして……」
 ゴミ捨て場で彼が見せた表情を思い出す。
見たとき、絶対何か知ってるんだって予感したのになぁ。速水さん言ってないっていうし、私の勘違いだったのかな。


「俺じゃなくて、市田なんじゃない?」

「どういうことですか?」

「……市田なんかわかりやすいじゃん。」
 赤信号に捕まってたので、速水さんは私の顔を見ながらクスッと笑う。

「へ?」
 えっと、それは……私が速水さんのこと好きだって、内川くん気づいてるんじゃないかってこと!?

「…なんか思い当たることでもあるの?」
 彼は意地悪く口の端を緩める。

「なんでもないですよ。」
 私はいじけたように言った。構わず速水さんは再び車を発進させ始める。

いっつも余裕だなぁ、速水さんは。


「残業してたの?」
 今度は速水さんが先に口を開いた。

「はい、ちょっとミスしちゃって。」

「そっか。長嶋に怒られた?」
 笑いながら彼は私に聞いてくる。

「長嶋さんは怒らないんですよ、だからそれがかえってツライというか…。自分の未熟を痛感するというか。」
 自分が情けなくて私は苦笑してしまった。
しっかりしようって思ったばっかだったんだけどな…。 

「ばかだなぁ。」
 落ち込む私を掻き消すみたいに、からかい口調な彼。

「だから言っただろ、焦るなって。
ちゃんと見てるから自信持て。
隣の部署の俺がいうんだぞ、そばで見てる長嶋が分からない訳ないんだから。
気ばっか焦って、空回りしてるだけだよ。」

「…はい。」

「おらそろそろつくから、市田の家。」
 俯いていた頭を上げると、見慣れない道から馴染みのある車道へといつの間にか出ていた。

あと5分ほど走れば、私のアパートに着くぐらいの距離。

「大丈夫か。」
 優しくつぶやく彼の言葉に私はこくんと頷く。

「ばーか。」
 
 今信号が青じゃなかったら、速水さんはたぶん、ぐしゃっと私の頭を撫でてくれていたんだろうなと思った。