意地悪な片思い


「内川くん、ちょっと待って!」
 階段を上がり始めた彼の背にようやく追いついた頃、

「あれ、速水先輩あがりですか?」
 え、速水さん?
内川くんの口から、先ほどまで会話に上がっていたその人の名が飛び出す。

「うん、そうだけど。」
 パっと視線を上にあげると、確かに藍色のスーツ。速水さんの視線が私のとぶつかった。

「あ…」

「市田。」
 彼も驚くように私の名を呼ぶ。

「今、市田さんのゴミ捨てに付き合ってたんです。」

「…そっか。」
 はいと返事する代わりに私はこくんと頷いた。

「市田もあがり?」
 速水さんは私と内川くんがいる下段まで降りてくる。

「はい。」

「じゃぁ待ってるから送るよ。」

「え?」

「内川も早く鞄もって来い、送るから。」
 速水さんは腕にしていた時計で時間を確認すると、車出してくると言ってそのまま出口の方へ向かっていった。

「ありがとうございまーす。市田さん行きますよ。」

「いや、え、ちょ。」
 さっきから、何かいろいろ気にかかることが多すぎて!

内川くんが私と速水さんのこと知ってるかもしれなくて、そのことを聞こうとしてたら、速水さんが現れて、それで今度は送ってくれるって?

トントン拍子で進んでいく物事に、私は若干目を回しちゃってるのだが、気にせず内川くんは軽やかなリズムでどんどん階段を駆け上っていく。

ちょっと待ってよ…!
彼においていかれないように私も慌てて階段を昇っていった。