「市田がもうちょっとこの場にいたいなあって思ってるときどうする?」
「それは……」
行動を遅くするとか、話しのばす…とか。
……あ、そ、そういうこと、
速水さんがコーヒー飲んでなかった理由。
「……顔、火照ってるけど大丈夫?」
くすっと笑った、意地悪な彼の表情。
「い、今の冗談なんですかもしかして。」
「さあどうでしょう。」
またしても口の端を緩めている彼。
あ、もうこの人本当意地が悪い。
人が質問したことには答えてくんないくせに。
優しい人だなんてうわさした人、誰ですか。
「速水さんって意地悪いんですね。
優しい人だって聞いてたのに。」
「…俺のこと知ろうとしたんだ?」
机に頬杖をつく彼。
「ほらそういうとこですよ。」
「ごめんね。」
そういいながらもその表情はちっとも悪気がなさそう。
「仕事中のすごい視線も俺を知ろうとしてのことだったのかな?」
悪戯な笑みで彼は私をからかった。
「見てないですよ。」
コップを手に取る。もう中身は入ってないのに。
「…なんで空なのに飲んでるの?」
「っ。も、もううざいですよ!」
私は口を尖らせた。
「ごめん、ごめん。」
子供のように無邪気に笑う彼は、とても私より6歳年上の29歳の大人には思えない。


