「速水さんは優しいですね。」
カクテルのグラスにそっと指を添える。
彼はよく褒めてくれるけど、絶対口先だけって感じしないんだ。
心からそう思ってるよって伝わってくるような――だから素直じゃない私も、彼の言葉を受け入れられるんだろうし、頑張ろうって思える……。
「まだ飲んでないのに酔いが回ったの?」
「…人が褒めてるのに。」
「ありがと。」
本気でそう思ってるのか分からない口調で、彼はお礼を告げる。そのままカクテルを飲んだ、彼の喉が一度大きく動く。
見とれてしまわないように私も慌てて彼に続いた。
「おいしい…!」
「だろ?」
満足そうに彼が笑う。
「いっぱいお酒飲みたかったら飲んでいいよ。
明日休みなんだし。
まぁ、俺も飲んじゃったから車で送っていけないけど。」
っていってもバス停までは送るつもりなくせに、私は心内でそう思った。
「仕事の悩みとか聞いてあげるよ。」
「はい。」
私はカクテルをもう一口飲む。
でも、仕事じゃなくてふたりの話がしたいんだけどな…私はちらっと速水さんを伺ってみた。
「どうかした?」
「あ、いえ…。」
速水さんは余裕そうに構えてる。
速水さんは別にそうでもないのかな。私と早く付き合いたいとは思わないんだろうか。
それってキスがやっぱり影響してる?あの時、私、受け入れたのは間違いだった?
「市田?」
「あ、はい。」
「何か疲れてる?」
「いえいえいえ。」
私は違いますよと両手をぶんぶんと振った。
まさか反応が悪いのが、疲れのせいじゃなくて下心のせいなんて言えない。
「ならいいけど。」
速水さんは少しだけ笑ってまた正面を向く。
まぁでも速水さんが焦ることはないんだもんね。私は特に会社内で人気ってわけじゃないし、どちらかというと地味な方っていうか、目立たない方っていうか。
速水さんは…人気、だもんな。
よく考えたら私、よく付き合わずに彼を放置できてるや。今に速水さん誰かに告白されて、その人とどうにかなるってことも考えられなくない。
木野さんだってその中の一人。いや、一人にすぎない――――…