意地悪な片思い


「速水さん。」

「何?」
 彼が私を見つめる。

「きゅ、給湯室での…ことなんですけど…。」
 デクレシェンドのようにだんだんと小さくなっていった言葉。

い、言っちゃった……!
うつむいてぎゅっと目を閉じる。

頭の中を彼がいいそうな言葉たちが駆け巡っていた。
それでも

「ん?」
そう彼が口に出すなんてこれっぽっちも思っていなかったけれど。
見上げた先の速水さんは、首をかしげて「何のこと?」とでも言いたげな表情。

…え?
私は思わず聞き返してしまいそうだった。


「あ、何でもないです!」
 笑って誤魔化すようにコーヒーを私は手に取る。

ばか。
別に、ちょっと聞いてみただけ…じゃん。

ゆがむコーヒーの水面。私が飲んだからなのか、私の表情が歪んでるからなのか。
消し去るかのように私はそれを飲み干す。

「冷た。」
 速水さんは手に持ったコーヒーを凝視した。

「まだ飲んでなかったんですね。」
 
「……なんでだと思う?
俺がコーヒー飲んでなかった理由。」

 彼がもう一口飲む。

「……いえ。」
 私の胸がドクンとなる―――。