意地悪な片思い


「内川くん、遅いですね。」
 私はちらっと振り返った。

「あーたぶん内川、結構長嶋達についていくと思うよ、木野も離さないと思うし。」

「そうなんですか。」
 じゃぁ、もうちょっとだけ…

「内川が早く戻ってきてほしいの?」
 え?いや、私が内川くんを気にしたのは違うくて。

「だって。」

「何?」

「…内川くんのこと気にしてたら、ゆっくり喋れないじゃないですか。
内容とか、気にしちゃって。」
 ばれちゃったら大変なんだから。

ちょっとだけ、速水さんは黙って
「俺も。」って言った。

「うん。」
 私は頷く。ちょっと恥ずかしくて速水さんの方を見れなくなる。

「寒くない?」
 速水さんが声を出す。

「や、大丈夫ですよ。」

「あほ。」

「何でですか。」
 寒くないって言っただけって、あ、

「寒いって言えよ。」
 ぐいっと彼が私の左腕に手を回して、体を近づける。
一気に私たちの間に余分なスペースがなくなった。

ぶら下げてる私の右手と、彼の左手が時々ぶつかっちゃうぐらいだ。
手はもちろん触れるだけで、つなげないけど。

「…速水さんのばか。」
 私はぽつりと言ってのける。

けど、それが余計の一言だったのか

「まだ寒いって、そうかそうか。」
 そう言ってふざけて怒った彼はまたもっと体を近づけようとする。

「わー、もう十分ですから!」
 一方の私はそれに慌てて言葉を訂正した。

速水さんは満足そうにクスって笑ってる。
本当この人には適わない。