意地悪な片思い


「今日、ごめん。」

「え?あ、あぁ…。」
 5人で飲むことになったことに対して、かな。

「明日も仕事なのに疲れただろ?大丈夫?」

「今日はあんまり飲んでないので。」
 一杯のビールと、木野さんが進めてくれたグレープフルーツのお酒ぐらい。コップも小さいから、量は少な目だ。

「市田が酔ったとこ見たかったんだけどね。」

「私、酔わないですもん。」

「嘘だ。長嶋と内川の前じゃいっぱい飲んだくせに。」

「あのときは特例ですやい。」
 ふふふって私は笑う。

「俺にも見せてよ。」
 そう速水さんが言ったタイミングで、私の手と彼の手が軽くぶつかる。

たぶん、ほかの歩行者を彼がよけたからなんだけど、今言った言葉がことばだけにドキッて胸が波打つ。

「…速水さんは酔ったら何になるんですか。」

「んー。」

「私、あまり速水さんが飲むとこ見たことないんですけど。」
 一緒に飲みに行ったときは飲まなかったし、
4人で飲んだ時も今回も、速水さんはそんなに飲んでる印象がない。

「知りたい?」

「はい。」
 そこでなぜか速水さんはクスッと笑う。

「何で笑うんですか。」

「たぶんそれ言っちゃったら、市田俺と飲んでくれなくなるんじゃないかなって。」

「へー?」
 それって私が速水さんと飲むの嫌になっちゃうってこと?

そんなに酔ったらひどいのかな…泣き上戸とか、木野さんみたいに物凄く面倒くさくなっちゃうのかな。

今日は教えてくれないみたいで、速水さんはそこで一旦黙る。