意地悪な片思い


「ありがとうございました。」
 5人の声にずれはあるが、店内に声を響かせ私たちはお店の外へ出た。

「寒いですねぇ~。ハハハハ」
 木野さんが風に当たった途端、笑い始める。

内川くんが大変だって言った意味、よくわかったよ。
笑い上戸になるんだね、木野さん……。

「これでもまだ軽い方ですよ、今日は。
明日仕事だから彼女なりに抑えてるんです。速水さんにも控えめだったし。」
 内川くんがこそっと私に耳打ち。

これで控えめって……そりゃ本気で飲まれた日には大変だよね。

「木野さん、帰りますよ。」
 帰る方向が同じな長嶋さんが、彼女に声をかける。

長嶋さんがあんまり今日酔っていないのも、彼女の世話があるからなのね。

「あの速水先輩。」
 内川くんが彼に声をかけた。

「何?」

「俺、木野さん心配なんでちょっとだけ長嶋さんについてます。

この間に引き続いて、長嶋さんに押し付けるのはちょっと…。あとすぐ追いかけるんで、先帰っててください。」

「あぁ、うん分かった。」
 内川くんってこういうとこ本当律儀だ。

「じゃぁまた明日。おやすみ。」
 長嶋さんがあげた声と共に、私たちは二手に別れた。


 飲食店が並ぶ道を、私は速水さんと歩いていく。人が半身入るぐらいの間隔で。

「内川くん足速いから、走って追ってくるんですかね。」

「だろうな。」
 速水さんがクスッと笑いを浮かべる。
寒いとはいっても、4月だから口から白い息はさすがに出ない。