「ん、ありがと。
これで何とかなりそうだわ。」
ほっとした表情の速水さん。
見ていたことがバレてしまわないように、私は咄嗟に視線をコップに移動させた。
「力になれたみたいでよかったです。」
私は軽く微笑む。
彼はメモ帳をパタンと閉じるとペンと一緒に、スーツのポケットにしまった。
「もうコーヒー冷めちゃったかな。」
右手でそっとコップに触れる彼。
私はそれを黙って見守る。
「……。」
「……。」
「じゃぁ戻ろうか。」
てっきりそう言われると思っていたのに
そう言うでもなく、口を開くでもなく、
黙ったまま。
私が喋るタイミングなのかな、
戻りましょうかっていうべき?
分かんないけど、でもとにかく沈黙は耐えらんない…!頭の中でクエスチョンマークがいっぱいになっていた時だった。
「お昼取った?」
速水さんは視線をコーヒーから私へと移した。
上目遣い、彼の目が私をとらえている。
「…さっき取ってました。」
仕事しながら取っていたということは何となく言わないことにした。
「そうなんだ。」
彼の口元が少し緩まる。
「速水さんは?」
「これから。仕事ひと段落しないと取らないタチで。
まあでも今はお腹減ってないんだけどね、始まる前はすいてたけど。」
「いざ食べ始めたらきっとまたお腹減り始めますよ。」
口元を緩めた私に、速水さんはくしゃっと笑い返した。
「……。」
「……。」
話が途切れた。
何を話そうか、そうあわてている私とは裏腹に、速水さんはぼーっとマイペースに壁の一点を見つめている。
速水さんなんで戻ろうって言わないんだろう。
私はまだ休憩時間残ってるし、速水さんもこれからそうだって言ってたから仕事的には大丈夫だけれど、それにしたって変な時間。
速水さんと会うたび、こんな空気にこれからもなっちゃうんだろうか、それならいっそ勇気を出して聞いた方がいいのかな。
そうじゃなきゃこのままだと仕事に支障がでてしまいそう、
彼のその香りに酔ってしまいそう―――。


