茶色い紙袋を手に持ったまま、私は廊下に出る。すると何てちょうどいんだろうか、メインルームの方から速水さんが男性社員さんとこちらに歩いて来ている。
ドキッて胸が大きく弾んだ。
そりゃ、そうでしょ……キスのこと、誰だって思い出しちゃうじゃん。
土曜のあれ以来、顔を見合わせるのは今がはじめて。
そんなどぎまぎは取りあえず抑えて、この手に持ったサンドイッチのお礼を言いたいが、声をかけれる雰囲気ではとてもじゃないがない。
速水さんの横にいるのが内川くんだったら、また違ったんだろうけど。
どうしよう…。
考えているうちに、
「この説明どうしましょうか。」
悩まし気に頭を抱えた様子の男性社員さんがすぐ近く。速水さんも速水さんで、ちょっとだけ険しい顔。
「お疲れ様です。」
結局私は邪魔にならないよう、小さく頭を下げてすれ違う。
彼らも同じように「お疲れ様です。」って頭を下げた。
速水さんはお疲れって言って、険しくしてた顔を一瞬緩めてくれたけど。
たぶん、私が紙袋を持っていることに気が付いたから。
そして、視界から彼の体が見えなくなる―――あぁ、もう言っちゃえ、ここしかチャンスないんだし!
そう思った私は、本当に最後、
「丸。」
小さく言葉を落とした。
「え?速水さんなんか言いました?」
男性社員さんが思わずその人に聞き返す。
「いや、俺は何も言ってませんよ。」
彼のクスッと笑った声が微かに聞こえきた。
私はメインルームの方に歩を進めながら、彼の言葉に心で反応する。
“俺は”言ってないよね。
彼の言葉に私はちょっとだけ頬を緩ませちゃいながら。
――――『木曜飲みどうですか。』
2枚目の黄色の付箋に書かれてたメッセージ。
「花丸。」
もう一度、すれ違いざまに落としたセリフを私は小さく口にした。


