意地悪な片思い


「会社行かれるんですか?」

「あぁうん、ちょっとやらないといけないこととか昨日休んだ分のが溜まってて。」
 彼はふうっと一息入れながら、携帯をテーブルへ置いた。

 連絡が速水さんから来ないとき、彼いっつもこんな感じなんだろうな。

私たちの部署とはお相手させていただく会社様の業種も大きく異なってるし、大手様が多いし。企画営業って大変だもの……。


私、帰らないとね。
一人になる時間も大事だ、それに十分すぎるぐらい長居しちゃってんだから。
風邪ぶり返しちゃわないか心配だけど、速水さんにそう言ったとしても彼は絶対仕事に取り組むことやめないんだろうし。

だったらせめて邪魔にならないように、
集中してなるべく早く仕事終わらせてもらわなくっちゃ。

「じゃぁ私、そろそろ帰りますね。
急に一晩家開けてるんでちょっと気になりますから。」
 鞄と一緒に置いていた上着を、パーカーを脱ぐ代わりに羽織る。

「洗濯して返しますね。」
 泡ついちゃったかもだから。

「いいよ、そんなの気にしなくて。」
 たたんでいた私から、彼は無理やりそれをはぎ取りソファに投げた。

洗濯ぐらいさせてくださいよ。
そう思いながらもしぶしぶ私は鞄を肩にかける。

「ごめん、送ってあげれたらいんだけど…」

「バスあるから大丈夫ですよ。」
 私は笑って玄関へと向かう。

 内川くんの電話をきっかけに、私たちの間を取り巻く空気は一蹴されて変な気まずさは既にない。

キスのことも忘れちゃってるような感じ。
私はちゃんと覚えてるけど、速水さんがね。速水さんが仕事モードに入ってるみたいに見えるから。

せっかく素直になれるチャンスだった気がするけど…。
本当はこれからどうするのか話したかったのが本音、でもさんざんじらせといた私がそんなこといえる立場なわけない。

ずっと、ずっと言いわけして自分を誤魔化してきた罰なのかな……


「栄養ドリンクヤバくなったら飲んでくださいね。」
 私はそう笑いながら彼に去り際言葉を残す。

マンションの階段を降りながら、そっと唇に触れた。

当然ながら彼の熱はもう感じられなかった。