「風邪はちゃんと治った。で、用件は?」
やれやれと速水さんは顔をしかめる。
座っていいよと今だ立ちっぱなしの私に彼が目配せした。私はおとなしくテーブルの前に座る。
チェストの2段目を速水さんは引っ張り出すと、そこからオレンジ色の小さな箱を取り出して、同時に私が持ってきたファイルを手に取った。
内川くん、仕事のことかな。
キッチンへ向かった速水さんの後ろ背に私は首をかしげる。
って、よくよく考えたら私がいるってバレたら一大事だよね!?
物音立てないようにしないと…!
「あー、なるほどね……。うん、分かった。うまく対処してくれてありがと。」
そんな私とは裏腹に彼は和やかな声。
速水さん余裕だなぁ…。
彼はぐるぐると換気扇を回し始める。カチッとした音が聞こえた後、苦いにおいが香ってくる。
あ、たばこ。
速水さんから香ってくる、あのビターな匂いはそれだったんだ……。
初めてみるなぁ、吸うところ。
そんなに意識したことなかったけど、吸う姿いいな。なんか男っぽいというか。
実家にいるときお父さんが隣で吸ってたらすごい嫌だったのに。
私はぼーっと彼を見つめた。と、視線に気づいた彼が私に目をやる。
「でー、その2枚目のところに書いてあるんですけどー。」
漏れてくる内川くんの声。
「分かりますかー?」
返事しない速水さんに内川くんが尋ね返す。
「うん、見てるよ。」
クスっと彼はたばこの煙をたたせながら口の端を緩めた。
み、見てるよって、ファイル見てないじゃんか。
私じゃんか、見てるのは。
ボッと不自然に私の頬が火照る。


