意地悪な片思い


 何秒それが続いた分からない。
だけど彼のそれはひどく優しくて、甘くて。恥ずかしいことなのになんだか私は安心してしまった。

「あっ。」
 彼のそれが私から離れる。
一瞬顔を見合わせて、私は彼の胸に顔をうずめるようにして視線を避けた。

キス、しちゃった―――速水さんと…

「殴れって言ったじゃんか。
なに目つむってんだよ。」
 彼が私の頭をぐしゃっと撫でる。

「はやみさん、こそ。」
 先にキスしようとしてきたくせに。


 でもしちゃった。キス。
付き合う前にキスなんて、前だったら考えられなかったのに…。

キスしちゃったってことは、お付き合いスタート?ってことになるのかな。うーん、でも私まだ好きって言ってないよなぁ…

だけど相手が速水さんだから、私はともかくそこは暗黙の了解ってやつでなぁなぁになって、大人の恋愛ってのは自然と交際がはじまるんだろうか。

だって、31歳だしそれなりに恋愛の場数踏んでるだろうし。

どうなるんだろう、これから。
やっぱり私が切り出すべき?
…でもなんか、恥ずかしいよ。

散々気持ちに言いわけしといて、
キスして、

ようやく好きだって素直に言うなんてさ。


「えっと、」
 彼が私に何か言いかける、でもそこで彼の携帯のものとみられる音楽が遠くから鳴り始めた。

変なタイミング。間をつなぐのに助けられたようで、でも実はそうじゃないのかな。まだよくわからない。

「電話行ってください。」
 私は彼の体をポンと押した。
速水さんは少しためらって、だけど結局リビングの方へ歩いて、

「もしもし?」
 そう電話に出る。

私はようやくそこで出っ放しになっていた水道の水を止めた。

「あー速水先輩やっと出てくれたー!」
 キッチンにいる私にも届いてきた電話相手の声、内川くんだ。

まぁこんなタイミングで電話かけてくるような人っていったら、彼ぐらいしかいないよね。

「朝一にもかけてたんですよ。あ、風邪治りました?」

「うん分かったから。ちょっと落ち着いて、内川。」
 速水さんが彼のテンションに面食らっている。