意地悪な片思い


 蛇口から出る水がザーザーと音を立てる。洗い物中だってのに、私の手は止まってて、泡が所々についているお茶碗を持ったまま―――

「…ばか。」
 彼が私の体をぐいっと無理やりこちらに向かせた。

ぐいっと抱かれると同時に、

「あっ。」
 カランカランと音を立てて、お茶碗が流しに転がる。

「は、速水さん…!」
 彼は私の背に回してる腕を外そうとしない。

「み、みずが…、」
 出っ放しだよ。

「泡も、つ、ついちゃいますから。」
 離れてとばかりに彼の体をちょっとだけ手で押す。

「いいから、洗剤服つけていいから。」
 速水さん……。

「それが本音?
帰らなかった理由は鍵じゃなくて。」
 彼はぎゅっとまた強く私を抱きしめる。

「あっ、えっとっ…」
 仕方なしに私はこくんと頷いた。

「わたしだって、速水さんの役に立ちたいんですよ。ちゃんとお返ししたいんですよ。」
 私の手はもう彼に抵抗してなかった。

「気にしなくていいのに。
市田は俺のこと優しいっていうけど、そんないい男じゃないよ、俺は。

お前に優しくすんのなんて、ただの下心に決まってるじゃん。」
 私に好かれたいっていう下心ってこと?

まぁそれもあるんだろうけどさ、でも、私思うよ。

「本当に速水さんが優しい人じゃなかったら、内川くんも長嶋さんも……」
 あと、

「木野さんも。
他の会社のみんなだって、速水さんのこと悪く言うハズですよ。」

「中でも内川くん、すごい速水さんのこと好きなんですからね。

長嶋さんの名前よく出してるけど、絶対速水さんの方を心では尊敬してるに決まってます。」

「うん。」
 速水さんが少し笑う。