「おわっとと。」
さっきまくりあげたばかりの袖が軽く落ちてくる。速水さんのだから当然か。腕長すぎるんだよ、チクショウ。
私はなんとかシンクに腕をあてがったり、左右の腕を器用に使ってあげようと試みた。
「…何変な動きしてんの。」
いつの間にか台拭きを終えてたようで、速水さんのくすっと笑った声が横から聞こえる。
「…見ないでくださいよ。」
恥ずかしいなぁ、もう。
ただでさえ茹でタコって言われたのに、今の私はまるっきしにょろにょろ動くタコだったに違いない。
「…台拭きあとで洗って。」
「はい。」
彼が私のすぐ隣に布巾を置く。そのまま私の背を包むようにしながら、ずれ落ちた袖をツーっとたくしあげてくれた。
「あ、ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
からかうような口調で彼は言う。
私の肌に触れる速水さんの手。腕なんて滅多に触れられるとこじゃないから、やけに緊張してしまう。
「ほそ。」
むにっと私の腕を掴んでみせた彼。途端、私の体がビクッて波打つ……痙攣する。
「肉ですよ。」
心臓をバクバクさせながら彼に辛うじて答えた。
不意打ちでそんなことしないでよ!なんてとてもじゃないけど言えないから。
「耳真っ赤になってる。」
ボソリとつぶやく彼。
「……速水さんのせいでしょうが。」
なんて言えない。
泡だらけの手だから逃げることすらできない。


