それからしばらくしない内に、スース―と寝息がたってきた。
よかった、寝れたみたいだ。
熱があるとあつくて寝苦しく感じちゃうから大丈夫かなって思ったけど、目をつむって10分ぐらいだからいい方だよね。
私は彼が夢の中に入ってるのをいいことに、そっと優しくおでこに触れる。
「熱いな。」
熱冷まし買い忘れちゃったんだよね、長嶋さんとドラッグストアに入る前までは覚えてたのに。
栄養ドリンクを選ぶのに審議してたあの時間がまずかったんだろな。
私は握ってた彼の手をそっと離すと、洗面台へと勝手にお邪魔した。
私の身長より少し低いぐらいの、3つに仕切られた茶色の棚の一番上から、洗ったばかりと思われる白いタオルをそっと貸りる。そのまま水で濡らして絞った。
それにしても速水さん、ここも綺麗だな。
男の人って結構汚い…というか雑なイメージがあったのに。
もしかして越してきたばかりなのかも。
私は彼のもとへ歩み寄り、額にタオルをそっと置く。
置いた途端、「んー。」って彼が言ったから、起こしちゃったのかとびっくりしたけど大丈夫だった。
タオルでおでこを冷やすことに医学的根拠はないらしいけど、気持ち軽くなってくれたらいいな。
私はそっと彼の手に触れる。
さ、そろそろ帰らないと…。
乗ろうと思ってた予定のバスに間に合わなくなっちゃったけど、その次のがあるはずだよね。
私はちらりと速水さんの顔を覗く。
しんどそう…
このままついててあげたいけど…。
後ろ髪を私はひかれてる。
大丈夫かな。
私は再び彼の手をぎゅっと握り返した。
すると、そうした瞬間にほんの少しだけ彼の顔がほころぶ。口の端が若干1ミリ緩んだぐらいのことだったけれど、私は見逃さない。
「速水さん帰りますね。」
ぼそっと彼につぶやく。
帰るときは言うって約束したから。
私は速水さんの手を布団の中にしまい込むと、寝室の扉を静かに閉めて、鞄を持ち玄関へ向かった。


