意地悪な片思い


「鍋、汚れおちそう?」

「あ、あぁ今すぐ!」
 見つめすぎてたことに気が付いて慌ててキッチンへ向かう。
くすっと速水さんは笑ってた。

アルミたわしのおかげで、汚れは大部取れた。今度は普通にスポンジの背を使って、ゴシゴシしてから水ですすぐ。もちろん使った食器たちと一緒に、布巾で拭くことも忘れずにね。


 片づけ終わったのと同時に、タイミングよくピピっと鳴る体温計。

「どうでしたか?」
 ベッドの脇にしゃがみ込んで、上半身を起こした彼から私はそれを受け取った。

「38度…あがってますね。」

「1分だけね。」
 速水さんは私からそれを奪い取り、ポンと枕横へ投げた。もう測りたくないのか、私の手が届かないようにベッドの向こう側へ。

「水銀だったらもうちょっとあるかもしれませんよ。」
 乱暴に体温計扱ってー、と私は手をぐいっと伸ばす。

「市田水銀使ってんの?」

「使ってますよ、フリフリしてますよ。」
 水銀は体温を測る前に大きく振って、メモリを下げないといけない。割れたら水銀は危ないモノだし、大変だけど正確さは体温計よりピカイチだ。

おばあちゃんからそう教えてもらったから私は水銀を信じてる。

「若いのに…」
 速水さんがわざとらしく笑う。

「若くても関係ないですよ。
24だろうが30だろうが、水銀です。」
 ようやく手の先に触れた体温計を、やったっとキャッチした。

「俺、31だけど。」

「へ?」
 上半身を彼の脚上に伸ばしてる、なんとも間抜けな恰好で私はすっとんきょんな声をあげる。