「俺、寝室いくね。」
振り返った途端、速水さんがよたよたと歩き出した。
夜になったら悪化するんだよね、風邪って。熱また上がり始めちゃったかな…
「帰るとき、声かけてくれる?
急にいなくなられるとびっくりするから。」
「それはもう。」
こくこくと私は何度もうなずいた。
「ありがと。」
くすっと速水さんは笑う。寝室に行きざま、マスクをゴミ箱の中にぽいっと捨てた。
私はテーブルの上に置いてた体温計をもって、横になろうとする彼に灰色の布団をかけてあげる。
寝室はベッドと観葉植物と軽い本棚ぐらいで、やっぱり物が少ない。
そばに置いてある観葉植物はパキラだろうか。ちょっとだけ元気がなさそうで、速水さんを心配してるみたいだった。
「もう一回熱測ってくれますか?
あがってそうで…。」
ピッと体温計の頭のスイッチを押す。
「ん。」
彼がおとなしく首周りから脇にそれをゆっくり持っていった。最中に覗いた鎖骨が妙に色っぽい。
たぶん寝室の明かりはつけてなくて、リビングから差し込む光だけが頼りなせいもあると思う。
あと髪がいつもよりぼさぼさなのもあるかな。
下手に手入れしてあるより、前髪が目に所々かかって、ちらちら覗く瞳とほくろがやけに妖艶さを増させてるんだ。


