意地悪な片思い


 上のオフィスに戻ろうと再び階段を上り始める。すると私よりほんの少し先で同じように上がっている人影を発見した。

「内川くん。」
 彼が一人なのを確認して私はその背においつく。久しぶりに一段とばかしをしてしまった。

「あぁ市田さん。」
 外に営業にでも行っていたのか彼の右手には黒いカバンが提げられていた。
中には書類でパンパンなのか鞄は大きく膨らんでる。

「今戻ったの?」

「あぁはい、営業で。
市田さんは雨宮さんのところですか?」

「うん、忘れ物してたみたいで。」
 忘れ物はこれだよとばかりに、手に持ってたペンを彼に見せる。

「相変わらず忙しそうだね。」

「そうなんですよ。今日バタバタです。」

「そっか。」
 速水さんも忙しさで機嫌がよくなかったのかな。でもそれだけじゃ、あのハグの理由にはなんないよね…

「あ、市田さん。長嶋さんいます?」
 階段を上り終わり、私たちはそこで立ち止まる。

「うん。たぶん席にいると思うけど。」

「ならよかった。
速水さんにどうしても渡したいものがあって。」
 扉を彼は開ける。

「ん?本人になんで渡さないの?」
 先にどうぞと譲ってくれた彼にありがとうと言葉を落とす。

「あれ気づきませんでした?
速水さんお休みなんですよ、今日。」

…え?