意地悪な片思い


 うやむやなまま金曜日を迎えた。

 せっかくお礼を言うっていう予定を、決めてた期限、つまり今日までに達成できたのに、心に抱いてるもやもやは消えてなくなってない。

むしろ色濃く、私の中をどよめいてる。

どうしてあんな態度なんだろうな…。
キーボードを打ち進めてた私の手はいつの間にか止まっていた。

「市田さん、市田さん。」

「あ、はい。」
 品川さんの声に覚めさせられた私はパッと彼女の方を向く。

「下の階の雨宮さんからお電話で、忘れ物してますよって。」

「分かりました、今お伺いします。」
 時計をちらりと確認すると時刻はお昼。
雨宮さんのところに行って、そのままお昼休憩とっちゃおう。

「よろしくね。」

「はい。」
 階段を降りて下のフロアに立つ。

よかった、今日は上の階の人は誰もいないみたいだ。まぁ本音いうと、速水さんと木野さんがいるんじゃないかっていう心配なんだけど。

「失礼します。」
 そう言って扉を開けると、

「市田さん。」
 雨宮さんがすぐに駆け寄ってきた。

「お疲れ様です。」

「お疲れさま。」
 彼が顔を少し緩める。

「早速ですけどこれ忘れ物です、たぶん市田さんのじゃないかと。」
 差し出されたのは赤いボールペン。
確かに私のだ。ところどころ欠けてる具合がまるっきし同じ。赤色は最近使ってなかったから、今まで気づかなかったのかもしれない。

「わざわざすみません、
お手数おかけしました。」

「いえいえ、僕のデスクに混ざりこんでまして。
僕が上行けれたらよかったんですけど、相変わらずの調子なんで。」
 改めてオフィスの様子をうかがうと、確かに大変そうな様子だった。
お昼だっていうのに誰一人昼食をとってる風じゃない。


「市田さん、何かありました?」

「え?」

「いや、何か浮かない顔してるような…。
大仕事終わった後の表情じゃないなぁって勝手に思っちゃって。

違ったらすみません。」
 こんな忙しい人に気を遣わせちゃうぐらい、私の顔はひどかったんだろうか。

申し訳ないなぁ。

「僕じゃなくてもいいですから、誰かに相談してくださいね。
ため込んでると毒素になりますよ。」

「ありがとうございます。」
 私は笑ってお礼を言った。