「あの。」
「ん。」
ちらっと私を覗く。
特別なことなんかしてないのに、それだけでやけにドキッとしてしまった。
声もそうだけど、今日の速水さんは色香が増してる気がする。
「この間のイベント、無事終わりまして。
内川くんも手伝ってくれたみたいで。
本当ありがとうございました。」
「あぁ。」
彼は廊下の壁にもたれかかる。
「俺じゃなくて内川にだろ、それは。」
「や、えっと無理して内川くんを派遣してくださったのかなって。」
オブラートにオブラートに。
内川くんから聞いたってこと、
ばれてしまわないように。
「…あ、あぁ。」
言葉足らずな返事。
彼はパタンと手に持ってたノートを閉じる。
「電話とかもそうですし、気にかけていただいてたことにかわり…」
「市田。」
「はい。」
言葉途中で速水さんは言葉を発した。
「ごめんけど今忙しいから、用件もういい?」
あ……。
「すみません、何か…。」
「木野、まだか?」
「今できました!」
会議室から勢いよく木野さんが出てくる。
「あれ、市田さん。お疲れ様です。」
「……お疲れ様です。」
木野さん、待ってたんだ。
「じゃ落ち着いたら。」
速水さんは一瞬私をみて、メインルームの方へスタスタ歩いていく。
「はい。」っていう返事も聞かずに去られたの、はじめてだ――。
「すみません、会話の途中でしたのに。」
「あ、いえ。」
まずい、うまく彼女に笑えない。
「木野。」
「はーい!」
じゃぁと言って、彼女はふわっと笑って速水さんの方へ駆けてく。
「大丈夫ですか?」
速水さんにふわっと花の匂いをなびかせながら、彼女は可愛い声で言葉を投げかける。
どうしてそんな変な態度なの?とかハグは何だったのとか。
いろんな感情があるはずなのに、ただただそんなの今はどうでもよくて。
心がズキンって痛い。
二人の後ろ姿を見るのがつらい。


