「市田、いちた。」
「はい?」
ようやく長嶋さんの声に気が付いた私は後ろに振り返る。
「大丈夫か?」
「あ、あぁすみません……何でしょうか。」
「まだ疲れ取れてない?もしかして。」
「いえそういうわけではないんですけど。」
私はちらりと隣の品川さんの席を覗く。
今だ空のまま。
確か午後から資料室にこもるって言ってらしたっけ。
ってことは、速水さんたちの姿を見てた可能性があるのは私と、長嶋さん。
他にもいるかもだけど、とりあえずは。
「長嶋さんさっき何か見ました…?」
「何かって。」
「えっと、こう…」
何ていったらいんだろう。
「と、とんでもないものを見たような感じにさせられる光景っていうんですか、
そんな感じのもの。」
「いや、特には。」
「そう、ですか。」
私はなんとも言えない息を一つはく。
「よくわからんけど、無理すんなよ。
これお願いな。」
長嶋さんが差し出したファイルを素直に受け取った。
それをデスクに置いて、
私はもう一度その人の方を向く。
速水さんも木野さんも、二人ともすっかり姿が見えない。
あれが何だったのか分からない今の私の心情みたいに、
ぽかーんと彼らの席も空っぽだった。


