「速水先輩、市田さんのこと気にかけてたぽいですから。
態度に全然出さないですけど。」

「え?そりゃ速水さん気にかけてくれてたのわかるけど…」

「たぶん、市田さんが思う以上に速水先輩気にかけてると思いますよ。」
 内川くんはパクっと唐揚げを口に放り込んだ。

「そうなの?」
 そう聞き返したのは私じゃなくて、雨宮さんだった。

速水さんって、結構仕事はビシバシタイプって聞いてたのになぁ、
雨宮さんはぼそっと言葉をこぼす。

「まぁ基本厳しんですけどね。
でもこの間珍しいこと言ってきて。」

「珍しいこと?」
 雨宮さんが首を傾げた。
内川くんはこくんと小さくうなずく。

「俺が下の階に手伝い行ってもらえるかって速水先輩に言われたとき、
先輩なんて言ったと思います?」
 内川くんは私を真っすぐ見つめてくる。

「分かんない。」
 気にしてない風を装って、私は目の前にあった煮物の中の緑の野菜を口にいれた。
そいつは大嫌いなインゲンなのに。

動揺が、そいつを避けることへの直感を鈍らせてしまったみたい。
吐き気を伴う――しかし内川くんの言葉を聞いた途端、味がしなくなる。