意地悪な片思い



 そして、奇跡的に、本当に奇跡的に。

私の胃をここのところキリキリさせてた元凶―――そいつが終わりを告げた。

「かんぱーい!」
 持っているグラスが全員のそれにぶつかって、カランカランと音を立てる。 

完全個室になってるお座敷の中央に置かれた大きなテーブル。予定通り雨宮さんを含めた下の階の部署の人たち、内川くんと長嶋さん、計10人ほどがお酒を交わしてる。

こんな大人数で飲むのは初めてといっても過言じゃない。いつも飲んでるこのお店に、こんな広いスペースが隠されてるだなんて私は知らなかった。

「市田さん、今日主役なんですから飲まないとですよ!」

「うん、ありがと。」
 隣に座る内川くんがぼーっとしてる私を見かねて声をかけてきた。

「ほら、からあげとかポテトとか好きなものじゃんじゃんどうぞ。
食べたいものがあったら注文遠慮せずにしてくださいね。」
 うんって返事して、とりあえず私は手前に置いてある小皿の中の物を手に取る。ポーンと口にそれを突撃させた。

「枝豆好きなんですか?」

「雨宮さん。」
 向かいに座ってる彼が微笑んでる。

「お疲れでしたね、本当に。」

「雨宮さんも。本当ありがとうございました。」
 彼が改めて差し出してきたグラスに、私のをカランと当てる。

私は一口ごくんとお酒を流しただけだけど、彼は3口ほど一気に味わった。どうやら優しそうな人柄からはそんな雰囲気思わせないが、結構なお酒好きらしい。

「ぷはー。」
 コマーシャルで流れるような飲みっぷりで、見てるこっちもすがすがしかった。

「お酒お好きなんですね、雨宮さん。」

「…ばれました?っていってもワインが一番好きなんです。」

「赤ですか?」

「いえ、専ら白ですね。赤はちょっとえぐくて。」
 赤も飲まずにワイン好きなんて言ってたら、ワイン家に怒られちゃいそうですけど。

おどけた雨宮さんの様子にくすっと私は笑みをこぼす。