「寂しい?」
「ば、ばか言わないでください!」
「表情に出てたのに。」
速水さんは狡猾そうに私に微笑む。
「ほら戻りますよ!
速水さんもお仕事なんですから。」
ガチャリと私は扉を開けた。
「はいはい。」
おとなしく彼も出てくれる。
すると「あ、速水さん!」ってようやく見つけたとばかりに、少し前に見かけた男性社員さんがろうかの向こうから駆け寄ってきた。
速水さんと喋ってた人だ。
「ここにいたんですか。木野さんが探してましたよ、さっき。」
「すみません。すぐ行きます。」
速水さんはそう話す間、私の方を一瞥。
木野さんの名前が出てきたから、私の反応を見たみたい。
「彼女の用件終わった後でいいので、会議室寄ってくださいね。まだ相談したいことありますから。」
じゃ、と言って彼は足早に会議室の方へ向かっていく。
「ほら、こんなとこで道草してる場合じゃなかったんじゃないですか。」
ぶつく私に、
「まぁ昼休憩返上ってことで。」
呑気に彼はそんなことを返してくる。
「じゃぁ私もお昼取りますから。お疲れさまでした。」
私は席に戻ろうとする。
彼も去り際なんか言ってくると思ってたけど(私的には『やきもち』か『コチョ』あたり)
背にかかってきたのは、予想外の一言。
……速水さんって策士だ、絶対。
こんなの、言われて嬉しくないヒトなんかいないもの。
頑張りますよ、
「頑張れ、市田。」
そう言われなくたって。


