「何で……、」
「なに?」
抱きしめたんですか。
「どうした?」
「いえ、何でも。」
私はそっぽを向く。
その答えを聞く心の余裕がないんだ。
心臓に落ち着けって言うので精いっぱいなんだ。
「やきもち可愛いね。」
そんな私とは対照的に、速水さんはくすっと口元を緩めてるけどさ。
やきもちなんかじゃないのに。
別に、ただちょっと気になっただけ、なのに。
でもだからってここでまた否定しちゃったら、速水さん、さっきみたいに抱きしめてくるかもしれないし。
ずるいなぁ、行き場がないじゃんか。
「勝手に言っててください。」
「…やきもち。」
「あ!もうまたからかう。やっぱり勝手禁止です!」
「ごめんごめん。」
ハハハって彼が笑った。
むすっとしちゃうけど、でも私もちょこっとだけ笑い返す。
彼は腕時計をちらりと確認した。
「そろそろ戻らないとな、市田お昼だったっけ。」
「はい。」
今、何時なんだろ。
というか、どのくらいあの状態でいたんだろ…。
なんか、速水さんの香りうつっちゃってそうだな。
苦くて甘いにおいの彼のそれ――。


