意地悪な片思い


「コチョ。」
 私の唇右端に彼は優しく触れると、指についたそれを舐めた。

さっき食べたトリュフのだ!
ココアがついちゃってたんだ…!

頬が赤みを帯びていくのが自分でもわかる。

「恥ずかしー。」
 そんな私を見透かしたように彼はそう言ってからかう。

何も反論できないから私は唇を軽くかむだけ。

うー、よりによってなんで速水さんに指摘されちゃうかな。私のばか。

まだついていないのか不安なので、一通り唇全体を手の甲でなぞる。

「大丈夫、もうついてないよ。」
 また速水さんにそう笑われたのを見ると、それは余計な行いだったみたいだ。

「自分で作ったやつ食べたの?」

「いえ、頂き物です。」

「市田忙しいもんな。 」
 速水さんは柔らかい視線を私に送る。

「……い、いっぱい貰ったんですか。」

「ん?」

「冷蔵庫たくさんチョコレートしまわれてて、速水さんも頂いたのかなって。」
 視線を彼から私は外した。

「気になる?」
 くすっと彼は笑う。

「…気にならないです。
ただ聞いてみただけですもん。

それに、木野さんには絶対貰ってるでしょうし。
内川くんが速水さんは女性に人気だって
この間言ってましたから。」
 そんなつもりないのに、やけにつんけんした言い方。

本当、私かわいくない。

電話ありがとうでしたとか、
久しぶりに話せましたねとか
もっと話すべきことあるだろうに、あーあ。

木野さんならもっと可愛くやるんだろうな、こういうトキ。