気を取り直して昼食をとろうと、そのまま廊下に出た。
しかし丁度、メインルームからこちらに入ってこようとする人影が見えて、
やばい!と思った私は慌てて給湯室に戻る。
扉を片目間隔ほどに開けて、わずかな隙間から様子を伺った。かすかに見えた藍色が誰かを物語ってる。
そのまま会議室とかに入ってくれたらよかったものの、私が警戒したその人は、扉から5歩程度進んだ先で立ち止まってしまった。
続けてそのあと進入してきた他の男性社員さんと、一つのファイルを片手に何やら相談事をしているみたい。
悩まし気に顎に手を添えて議論を交わしている。
はやく、どっかいって。
今は話したくないんだから!
木野さんのことといい、バレンタインのことといい、いろんな感情が彼に対して渦巻いてんだ。
貴重な昼休憩のことを考えると出ていきたいけど、彼と対面するのはそれ以上に避けたい。
ジレンマに襲われつつ、
私はその場で足を軽くバタバタさせた。
そのまま2、3分たつと、ようやく彼らの話しあいに区切りができたようで、彼と話してたもう一人の男性社員さんがこちらの方に歩み寄ってくる。
どうやら会議室に向かうようだ。
男性社員さんじゃない、もう一人のその人は廊下にまだ残っているが、今彼がしている書留が終わればすぐにメインルームに戻っていくだろう、
あと少しの辛抱…!
そう安堵したとき、
「あの、市田さん。」
「ふえ!?」
突然名前を呼ばれ、すっとんきょんな声を大きく出してしまった。
振り返ると申し訳なさそうな顔で
「市田さん?ですよね。
すみません、俺そろそろここ出たくて。」
そう私に投げかけてくる。
忘れてた、そういえば給湯室この人いたじゃんかよ…!
「ごめんなさい、どうぞどうぞ。」
慌ててドア前を譲ると彼はぺこりと礼をして、去っていく。
絶対変に思われたよね、あのヒトに。
ハハハ。私は後ろ髪を思わずかく。
って私結構大きな声出しちゃったけど――…「何してんの?」
「わ!」
今度は前から声をかけられ、たちまち驚く。
あぁ、やっぱり見つかっちゃったか。
さすがに聞こえたよね、、
「…お疲れ様です、速水さん。」
警戒してた彼に、渋りながら挨拶を返した。


