「市田さん、はいこれ。」
「なんですか?」
週末が明けたその日、会社に着いた早々品川さんが私に可愛らしいピンクの箱を差し出してきた。
「大したもんじゃないから気にしないで。
娘たちの手伝ってあげた分だから、余りで申し訳ないんだけど。」
照れくさそうに品川さんが笑う。
娘の手伝い?余り?
いまいちよく分かんないけど…
「ありがとうございます。」
と受け取った。
「あ、田中さんだ。田中さーん。」
そそくさと彼女は出勤してきた彼に、私よりも大き目な包装紙に包まれたそれを差し出した。
……なんとなく、分かってきたような気がした。
「これ長嶋さんとか、男性社員さんのみんなで分けてください。」
あ、やっぱり。
私はパソコンに表示された右下の数字を見て、はぁっと大きなため息をこぼす。
なんで金曜日気づかなかったんだろ、月曜は14日だって分かってすらいたのに。
「ありがとーう、
チョコレートおいしくいただくね!」
そう言った田中さんの声が槍となって、私の胸に突き刺さってきたような感覚がした。
席に戻ってきた品川さんにひっそり告白する。
「あの、私バレンタインすっかり忘れてて…、」
彼女は気にしないで、きにしないでって言うと、
「私もね市田さんに男性社員さんのどうするって相談しようかと思ってたんだけど、
忙しいからそんな暇ないだろなって思って、声かけなかったの。
ごめんね、やっぱり言うべきだった?
でも、みんな事情分かってると思うから気にしなくて大丈夫だと思うよ。
さっきも田中さんに、今年は市田さんと私からなんでって言っておいたから。」
「え!わー、もうごめんなさい!
そんな気つかわせちゃって、
ホワイトデーには…ってホワイトデーもイベント中だし…」
「ううん、気にしないで気にしないで!
市田さんに私いろいろ助けられてるから、そのお返し。
市田さんの仕事じゃ特にないのに、掃除とかいつもありがとうね。」
ほわっと彼女は目じりを緩ませた。
あー…なんて優しんだ。
品川さんの旦那さんが羨ましい、毎日こんな可愛らしい笑顔が見られるなんて…。
「仕事落ち着いたら絶対お返しするんで、本当ありがとうございます。」
別にいいのに~、と品川さんはふふっと笑う。
「あ、さっきあげたのチョコレートだから、給湯室の冷蔵庫入れとくのお勧めする。」
私ははいって微笑み返して言われたとおりにした。


