「失礼しました。」
オフィスの扉を閉めるまで、雨宮さんは柔らかい笑顔で見守ってくれていた。
いらいらしてたはずなのに、彼のおかげですっかり気分回復。礼儀正しい人だなとほっこりしながら私は階段を上る。
「あ、市田さーん。」
何でこんなにも今日は階段でひと悶着あるのだろう。
私は声の主に見当がつきながらも顔をあげて確認した。
「内川くん、お疲れさま。」
やっぱり元気の良い、犬のような彼だった。
「お仕事大変らしいですね、大丈夫ですか?」
バタバタと私の方に駆け下りてくる。
私もちょうど階段が切り替わる、何もないフロアで降りてくる彼を待った。
「うん、大丈夫だいじょうぶ。
内川くんも下に用事?
内川くんの部署の人よく降りてるね。」
速水さんと木野さんのことを思い出して言葉をかける。
「そうなんですよ、人手が足りないみたいで。俺は使いっぱしりみたいなもんなんですけど。」
「そうなんだ。」
若干彼も疲れているようだった。
「速水さん見ました?」
「あぁ、うん。
さっき木野さんと仕事してる風だったよ。」
「あー、木野さんと。
そっか、今日木野さんについてるのか。」
感慨深そうに何度か頷く。
「…この間飲み会行けなくてごめんね。
木野さん、代わりに出席してくださったのかな。」
やめておけばいいのに、私はその話を持ち出した。
久しぶりに話した私は忘れてたんだ、
彼が爆弾を落としていくことを。
「そーなんですよ、俺が誘って。」
あっ、って何か思いついたように彼はあたりをきょろきょろ見渡す。
「木野さんああ見えてお酒すごい弱いって知ってました?」
…ああ見えても何も、彼女可愛らしんだからお酒弱そうだけど。


