「は・や・み・さ・ん!」
ポンと彼女は彼の背をたたいた。
「隣の部署の人に挨拶しないと。」
彼女はにこりと微笑を浮かべる。
「あ、あぁ。お疲れ様です。」
そう振り返ってきてようやく分かったけど、その人は立ったまま、そこで何か書類に書留を施していたらしい。手にはバインダーに挿んだ何かがあったから。
「お疲れ様です。」
私は微妙な面持ちながら挨拶を返す。
ちょっと驚いた表情をしていたからようやく彼は、私だってことに気が付いたみたいだ。
階段を降りおわるまで、私をしばし見てる。
「今お仕事大変らしいですね。
長嶋さんに伺いました。」
世間話、とでもいうんだろうか彼女が話をつづける。
「あ、はい。そうなんです。」
飲み会、やっぱり木野さんが行ったんだ。すぐに確信した。
「お昼とかちゃんと食べられてますか?
お体、気を付けてくださいね。
ってこれから私たちお昼なんですけど。」
ごめんなさい、って彼女がまた可愛らしく謝る。
いちいち仕草とか可愛らしいのが妙ににくい。笑顔もそうだけど、話してるときの手の動作とか。
話の内容的に、なんか揺さぶられるようなタネが込められてるみたいに聞こえるけど、何か言う気にもさせないような可憐さっていうか、なんていうか。
適わないなーって納得させられちゃうんだよね。
「気にしないで、ごゆっくりどうぞ。」
じゃぁ失礼します、って私はその場をすぐに去ろうとする。
彼女とは何となくそれ以上話したくなかったから。
彼女も同じ気持ちだったのかよくわからないけど
「速水さん行きましょうよ。」
って声が後ろから聞こえてくる。
思わず振り返ると何を話してるのかもう聞こえなかったが、速水さんも彼女に詰め寄っていた。
速水さんのばか。
無性にいらいらした。


