意地悪な片思い


 寒い日々はそれからも続いた。
大事な打ち合わせだった金曜日は特にひどかった。

まぁ企画が何とか認められたみたくそんな寒さも乗り越えられたけど、その次の週もたいそう厳しい冷たさがまだ続いている。

「じゃぁ市田、今日は先失礼するな。」
 コートを羽織った長嶋さんが、コピー機の前で立っていた私に声をかけた。

時間は19時を回ったぐらい。
ここのところ残業続きな長嶋さんが、一段と早い帰宅。

なんで長嶋さん早い上がりなんだっけ、そう一瞬勘ぐってすぐに今日が金曜日だったことを思い出した。

例の飲みの奴だ。速水さんと内川くんと長嶋さんと…たぶん木野さん。どこで飲むのかは知らない。でもきっとあのお店。4人で飲むときお世話になりっぱなしのあそこ。

「お疲れ様です。帰り気を付けてくださいね。」
 私は平然として言ってのけた。

「お疲れさま。」
 長嶋さんが背を向けて去る。

飲み会か…。
彼の残像にふと思いを巡らす。

しかし一層音を激しく立て始めたコピー機に、早い段階でそれは妨害された。

「お前は仕事だろ」って言ってるみたいだった。
そうですねー、って仕方なく私は出てきたそいつを取り上げる。

私はまだまだ仕事だもんね。
はぁっと誰にも聞こえないよう嘆息。


 自席へ戻りながら、速水さん、もちろん行ってるんだよね。
とその人の席を見たが、当然のように明かりはついていなかった。
その隣、木野さんの席も。

あー、だめだめ。
私は両頬をぱちんと叩いた。
じんと余韻が続くぐらい強く。

中だるみする時期に大抵大きな失敗しちゃうんだから!気を引き締めないと!


 私はコピーしたそいつを封筒に入れる。

だけど集中力が切れてしまったのか、なんだか集中できない。仕事は次の段階に入り、いよいよ大詰めってところなのに。

私はしぶしぶ給湯室に向かってカフェインに頼ることにした。

あの匂いに、今は助けてもらうしかほかはない。