速水さんも忙しいのかな…。
私は長嶋さんの後に続いて階段を降り始めた。
「本当はな。」
「はい。」
「来週の金曜速水と内川と俺と、市田とでまた飲みに行こうってなってたんだ。」
「あ、あぁ、そうだったんですか。」
来週の金曜…うーん、笑ってしまうぐらいどう頑張ったって私には行けるはずがない。
「市田今忙しいから絶対無理だ、って代わりに言っておいた。
俺も結構余裕ないけど、まぁ飲みぐらいなら顔出せるし。
市田がいけないんじゃ、せめて俺が行かないとな。」
「すみません。」
もう頭の中パンクしそうなぐらい、仕事に追われてまして…。
これからもっと忙しくなるだろうし…
たまっている仕事を頭の中でカウントし始める。
うーやめやめ。数えるんじゃなかった。
「3人じゃ半端だから誰か代わりに呼ぶかってなってるけど、誰呼ぶんかな。」
「内川くん顔広そうですし、融通聞きそうですけどね。」
私は笑う。
階段はあと半階のみ、また一段私は足を下ろす。
「あれかな、木野さんかな?
そこあたりが一番適当っぽいよね。」
足が空中で止まる。
「…あ、あぁ、そうですね。」
地につく。
木野さん――花の香りがする、綺麗な人。
「速水と仲良さげだしな。」
「はい。」
『本当に仕事か?』
以前そう彼らを見て、ぶつくされていた長嶋さんの言葉を思い出す。私と速水さんの微妙な関係、長嶋さんは知らないんだもん。
木野さんと怪しまれてることの方が自然なんだよね。
「速水さんと内川くん、あとたぶん木野さんによろしくお伝えくださいね。」
私はそこで遮断するように笑う。
長嶋さんは「無理すんなよ。」そう優しく告げてくれた。
外に出て、すぐにコートに手を突っ込んだ。
夜空の下は随分と寒かったんだ。


