意地悪な片思い


「あんま一人で抱え込むなよ。
ただでさえ、お前は頑張り屋なんだから。」

「はい」とは言えない。
そんなことないって思うから。

本当に頑張り屋なら仕事を任された時点で、はいって答えたはずだ。
それで今だって、もくもくと取り掛かってるはずだ。

私は頑張り屋ってわけじゃなくて、ただ、ただ、失敗するのが怖いだけ。
だから、がむしゃらにやってるだけ……。

「がんばってる自分を否定するのはやめろよ、市田。」
 返事しない私に、彼は低音を響かせた。

「たまには私頑張ったよねって認めてあげないと、もたないぞ。」
 優しい言葉を私にまた言ってくれる。

「…ん。」
 少しだけ、泣きそうになった。

意地悪なくせに、こういう時この人は私を分かろうとしてくれるんだ。

「何か聞いてほしいことあるの?」
 彼は穏やかに私に尋ねた。

相談してしまおうか。
どうしようって迷ってばっかで答えが出てこないことを。
自分に自信が持てないことを。
何を言われても、今はダメな気がすることを。

…ってだめだよ。

「何でもないです。」
 私は笑う。

「嘘つくなよ。」
 彼が言う。

「でも。」
 私は口を開く。

「ん?」

「しばらく、こうして話てたいです。」

 彼に頼りっきりになるのは何か違う。
仕事のことを相談して、やさしさに甘えるのは何か違う。
だけど。だから。

最低限のラインだけ。
このまま、他愛もない話をして、私ちょっとだけ心を落ち着かせたい。

そうしたらきっと、ううんそれだけで、
私また明日からも頑張れるよね?


「面白い話してあげようか?」
 そうして私を笑わせようとしてくる彼の、速水さんの甘い声はひどく心地よかった。第2のクリスマスプレゼントかもって思った。

あ。でも、やっぱり訂正。
ひどくじゃなくて、ちょぴっとだけね。