「ただいまぁ。」
ため息に近いような声で私は誰もいない部屋に言葉を漏らした。
会社から、寒気から、逃げるように帰宅した私はすばやくドアを閉める。
履いていた茶色のバレエシューズや羽織っていたコートのあちらこちらに若干の雪がついてるってのに、何も気にしないまま、若干両腕あたりをたたき払うだけで私はすぐに部屋に上がった。
それらをほっぽりなげてベッドに飛び込む。
その拍子に布団や枕が大きく弾んだ。
飛び込む前にコートは床に投げ捨てたから布団は濡れずに済んだけど、おかげで床に落としたコート周りには水滴が散らばっている。
ぼーっと私はそれをしばらく無心で眺めながら、少し経ってうつ伏せに「うー。」ってうめいた。
どうする?どうする?
心内で私は自問自答を繰り広げる。
こんな大きな企画、私本当にできる?
他にも任されてる仕事たくさんあって、いっつもそれだけで手いっぱいな私が。
残業だって、たまに「月の限度時間オーバーしそうだぞ」って注意されることもあるのに。
長嶋さんに渡された紙に書いてあったことを思い出す。
『週末参加できない忙しい世帯にも、春休みを利用して参加してもらえるような。』それが今回のコンセプト。
「この間の50周年記念の奴…」
特に携わっていない会社のイベントに、長嶋さんに連れられたのはこの企画に生かせると思ったからだろうか。そこまで見通してたんだろうか。
「うー…。」
帰宅して2度目の嘆息。
いっそのこと「やれ!」って命令されてたらな。
そしたらたぶん、逃げ場を失ったみたく今も悩んでるんじゃなくて、がむしゃらに取り組んでたんだろうけど。
「やらないか?」だもんな。
それに考える期間が正月休みっていう結構なスパンがある感じ。
私、悩みの渦に入るととことん飲まれていくタイプというか、
つまりはマイナス思考……。
とりあえず、化粧落とさなきゃ。
3度目のため息をこぼして、やっと動き出した時には帰宅して既に30分が経とうとしている頃。
その日はろくに夕食も取らないまま、早々に布団にもぐった。
カバンの中身もコートもそのまま帰ってきたときと同じ状態で。


