意地悪な片思い


 盛り上がりがピークを達し、終盤に差し掛かった頃、

「市田、先帰っていいぞ。」
 長嶋さんがこそっと耳打ちしてきた。

「もう少ししたら下の階の奴ら来るようになってるんだよ。」
 下の階とは私たちとは異なる部署の人たちのこと。
いつのまに呼んだんだろう。

「俺、いろいろ挨拶とかでまだまだ遅くなると思うから、戻ってたまってる仕事やったら今日はもう帰りな。
あ、会社まではタクシー使っていいから。」

 言い放つ長嶋さんに、少しだけためらいながらも制されてしまったので、私は大人しく会場をあとにする。

30分かけてタクシーを利用し、会社に戻ると
「市田さんはもう戻ったんだ。」
 そう同じ部署の人に声をかけられた。

「うまくいってましたよ。」と会場での様子を伝えると、その人は嬉しそうに笑う。

それもそのはず、長嶋さんの次ぐらいに力を注いでた人なんだから。

やっぱり私じゃなくて、この田中さんが行くべきだったのにな。

長嶋さんなんで私呼んだんだろう。


「これじゃぁ頼んでいいかな。」
 彼の手に書類が何枚かある。

手渡されたものを1枚1枚見て、せめてこのぐらいと私は承諾の返事をした。