朝食はイチゴジャムの食パンと卵焼きだ。昨日で賞味期限切れだったパン。一人暮らしだと食パンをみたすのもなかなか難しい。

テーブルの上に出来上がったそれらを置いて、私は放置していた携帯の電源を一度入れる。

「来てないか…。」
 何も連絡がないことを確認するとまた閉じた。

いただきますと挨拶して、半分ほど食パンをかじったとき、私はまた寸分違わず携帯の電源を入れた。

別に、連絡を確認するためじゃないよ。天気を確認するため。まぁ、そりゃ携帯で見なくたって、外見れば今日は晴れだってことはわかるけど……。


そうやって携帯を触るたび、自分の中で言いわけをしながらつついていたけど、結局食べ終わって食器を洗う頃になっても彼から連絡は届かない。


気分が乗らなくてももっと早く送るべきだったな、って今更ながら後悔だ。

連絡が来ないならと、携帯をポーンとテーブルの端の方に追いやってしまった。そのまま私はゴロンと横になり、ベットのそばのチェストの上に置いていた読みかけの本を手に取る。

ある高校生の青春を描いた小説――文化祭に向けてバンドを成功させようと躍起になる物語。

バンドは4人構成なのだが、その中の日向って男の子と彩っていう女の子が両想いなのに互いを罵ったりして、すれ違う描写も面白い。今はちょうど、レシートの裏に互いの気になる人の名を書くって場面。

女の子がどきどきしながら提案したんだ。男の子と二人で学校終わり、スーパーに寄ったときに。

「告白か。」
 パタンと私は本を閉じた。
いい場面だけど、なぜだかその先を読む気にはなれなかった。

私も待ってもらってるんだっけ。
給湯室でのことを思い出す。


そして、次に思い浮かぶのは金曜日の帰りの車のこと。

あのとき彼がおでこを人差し指でぶたなかったら……
どうなっちゃってたんだろ――。